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東京高等裁判所 昭和39年(ラ)121号 決定

抗告人 戸田建設株式会社

相手方 広川敏郎 外二名

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告申立の趣旨は、「原決定を取消す、相手方からなした移送の申立を却下する」と言うのであり、その理由の要旨は次のとおりである。(一)相手方らのなした移送の申立は、本訴の管轄裁判所は、新潟地方裁判所であつて東京地方裁判所ではないということを理由としている。しかし、本訴は損害賠償請求事件が併合されていて、債権者たる抗告人会社(原告)は、東京都内に住所があり、金銭債務の履行の場所は、別段の意思表示のない限り債権者の現時の住所においてなすべきであるから、抗告人会社の現時の住所地たる東京都を管轄する東京地方裁判所に右損害賠償請求事件につき管轄がある。しかるに相手方らの管轄違を理由とする移送申立に基づき、移送の決定をした原決定は違法である。(二)もし、原決定が、民事訴訟法第三一条に基ずき職権を以て移送の決定をしたというのであれば、相手方らは、著しい損害を生ずるとか、訴訟の遅滞を生ずるということは何一つ主張しないのみならず立証もしないし、また、かゝる証明は存しない。かえつて、本訴において、抗告人が予定している証人の大部分、即ち抗告人の証拠申出をした証人間英太郎、蓮沼優、石橋次郎、熊谷梅三郎、栗原一也、谷島啓之のうち間英太郎、石橋次郎を除くその余の者はすべて東京に住所を有する者である。したがつて著しい損害又は遅滞を避けるための必要は全くないどころか、むしろ移送することによつて抗告人は著しい損害をうけ、また、訴訟の遅滞を生ずる。

よつて原決定の取消を求めるというのである。

本件記録を調査するに、相手方らの申立は抗告人主張のとおり、本訴の管轄は新潟地方裁判所にあり、東京地方裁判所にないことを理由に、管轄違いによる移送の申立をしているが、原移送決定は民事訴訟法第三一条に基づいてなされたことが明らかであるから、右移送決定は民事訴訟法第三一条により、裁判所の職権によつてしたものと解せられる。ところで、訴状ならびに答弁書によると係争の土地建物は新潟市にあり、この分については、本来新潟地方裁判所の管轄に属するものであるのみならず、損害賠償の請求も抗告人が日本興業銀行の依頼をうけ、新潟市営所通一番町の土地約五〇〇坪を自己名義を以て買収し、かつ右銀行の建物の建築を請負つたので、右五〇〇坪内に土地建物を所有する相手方敏郎の父たる相手方精三郎がたまたま町会長をしていたことから同人に買收のあつせんを依頼し、その努力により相手方らを含めて買収に成功した。しかるに相手方らは、その所有土地建物の抗告人への売買を争うことに基づいている。そうすると証拠方法は多く新潟地方裁判所管轄内にあるものと推認され、かつ、右本件訴訟の内容からみて訴訟の追行上、新潟地方裁判所で審理をうける抗告人の負担より、東京地方裁判所で審理をうける相手方ら負担の方が大きいものと推認するに難くない。

したがつて、訴訟につき著るしい損害又は遅滞を避けるため必要ありと認めて本訴を新潟地方裁判所に移送した原決定は相当であつて、本件抗告は理由なく棄却すべきものである。

よつて主文のとおり決定する。

(裁判官 千種達夫 渡辺一雄 岡田辰雄)

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